人々は笑ひ出した。しかし、彼の歌ふ様子には周囲の人々の顔色には少しも頓着せぬ熱心さが大胆不敵に籠つてゐた。 「寒い寒いと 云たとて寒い。 何が寒かろ。 やれ寒い。 ヨイヨイ。」
彼は頭を振り出した。声はだんだんと大きくなつた。彼のその意気込みから察すると、②( )目的地まで到着するその間に、自分の知ってゐる限りの唄を唄ひ尽さうとしてゐるかのやうであつた。歌は次ぎ次ぎにと彼の口から休みなく変へられていつた。やがて、周囲の人々は今は早やその傍若無人な子僧の歌を誰も相手にしなくなつて来た。③さうして、車内は再びどこも退窟と眠気のために疲れていつた。
そのとき、突然列車は停車した。暫く車内の人々は黙ってゐた。と、俄に彼等は騒ぎ立つた。 「どうした!」 「何んだ!」 「何処だ!」 「衝突か!」
人々の手から新聞紙が滑り落ちた。無数の頭が位置を乱して動揺めき出した。 「どこだ!」 「何んだ!」
「どこだ!」
動かぬ列車の横腹には、野の中に名も知れぬ寒駅がぼんやりと横たはつてゐた。勿論、其処は止るべからざる所である。暫くすると一人の車掌が各車の口に現れた。
「皆さん、此の列車はもうここより進みません。」 人々は息を抜かれたやうに黙つてゐた。 「H、K間の線路に故障が起りました。」 「車掌!」 「どうしたツ。」
「皆さん、この列車はもうここより進みません。」 「金を返せツ。」
「H、K間の線路に故障が起りました。」 「通過はいつだ?」
「皆さん、此の列車はもうここより進みません。」
車掌は人形のやうに各室を平然として通り抜けた。人々は車掌を送つてプラツトホームへ溢れ出た。彼等は駅員の姿と見ると、忽ちそれを巻き包んで押し襲せた。数箇の集団が声をあげてあちらこちらに渦巻いた。しかし、駅員らの誰もが、彼らの続出する質問に一人として答へ得るものがなかつた。ただ彼らの答へはかうであつた。
「電線さへ不通です。」
問一、下線の付いている漢字の単語に振り仮名をつけてください(2点) 黙殺 横着 頓着 傍若無人
問二、下線部①のところに入る言葉として、ふさわしいのを次の選択肢から選び、入れてください。(2点)
1ようやく 2いかにも 3ひとりでに 4さんざん 問三、下線部②のところに入る言葉として、ふさわしいのを次の選択肢から選び、入れてください。(2点)
1.だいたい 2.ついでに 3.おそらく 4.ついぞ
問四、下線部③「さうして、車内は再びどこも退窟と眠気のために疲れていつた。」では、周りの乗客はなぜ子僧を無視するようになったか分析してください。(2点)
問五、この文章全体を通して、「子僧」の人物像について簡単に分析してください。(2点)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 問一【答案】もくさつ おうちゃく とんぢゃく ぼうじゃくぶじん 問二【答案】2
【解析】“いかにも”意为“真的,实在”。句意:他表现出一副大人的
样子占了一席之地,开始把毛巾扎在头上。 問三【答案】3
【解析】“おそらく”意为“恐怕”。句意:他恐怕要在列车到站之前,
将自己知道的所有歌曲都唱个遍。
問四【答案】その子僧は周囲の人々の顔色には少しも頓着しなく、傍若無人に歌っているからである。
問五【答案】子僧は周囲の人々の顔色には少しも頓着しないと同時に、楽天的で、自分の心に従い、他人の行動に影響されにくいという点もある。
五、「お勧めの一冊」という題で自分の好きな日本の小説を日本語で簡単に紹介してください。(200字以内)(5点)
【答案】
太宰治の『人間失格』。『人間失格』は小説家太宰治による中編小説である。他人の前ではおかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出す事の出来ない男?大庭葉蔵の人生(幼少期から青年期まで)をその男の視点で描く。日本で大きな人気を博す。
北京第二外国语学院2013年日本文学考研真题及详解
考试科目:综合考试(日)
一、次にあげたA群の各作品とB群の各作家名とを比べ、関係があるものの符号を二つずつ結びつけ、10組みの組み合わせを作りなさい。例:?――?(0.5点×10=5点)
A群——―①『山月記』 ②『蟹工船』 ③『銀河鉄道の夜』 ④『それから』 ⑤『斜陽』 ⑥『破戒』 ⑦『方丈記』 ⑧『たけくらベ』 ⑨『土佐日記』 ⑩『高瀬舟』
B群――ア森鴎外 イ中島敦 ウ宮沢賢治 エ島崎藤村 オ夏目漱石 カ鴨長明 キ紀貫之 ク太宰治 ケ小林多喜二 コ樋口一葉 【答案及解析】
①――イ 《山月记》是中岛敦的作品。 ②――ケ 《蟹工船》是小林多喜二的作品。
③――ウ 《银河铁道之夜》是宫泽贤治的作品。 ④――オ 《以后》是夏目漱石的作品。 ⑤――ク 《斜阳》是太宰治的作品。 ⑥――エ 《破戒》是岛崎藤村的作品。 ⑦――カ 《方丈记》是鸭长明的作品。 ⑧――コ 《青梅竹马》是樋口一叶的作品。 ⑨――キ 《土佐日记》是纪贯之的作品。 ⑩――ア 《高濑舟》是森鸥外的作品。
二、次の文で始まる作品名を後から選び、その記号で答えなさい。(1点×5=5点)
1.ある日のことでございます。お釈迦様は極楽の蓮池のふちを一人でぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
2.あわただしく、玄関を開ける音が聞こえて、私はその音で、目を覚ましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅に決まっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。
3.うとうとして目が覚めると女はいつの間にか、隣の爺さんと話を始めている。 4.木理麗しき櫸胴、縁にはわざと赤樫をもちいたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少し寂しそうに坐り居る三十前後の女。 5.天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず。 ア.ウイヨンの妻 イ.三四郎 ウ.蝴蛛の糸 エ.学問の進め オ.五重塔 【答案及解析】