入を阻止するには十分ではない可能性がある(NRC 2004)。外来種の二枚貝の導入が法律で認められている場合に(無害種の「クリーンリスト」で特定されている種など)、付随的な導入を減らすためのベストプラクティスは、国際海洋調査審議会(ICES、International Council for the Exploration of the Sea)の行動基準(ICES 2005)に従うことである。この行動基準は、20の加盟国で施行され非加盟国の方針の指針となるはずである。
さまざまな地域間で在来種が移動することは、野生集団の遺伝的多様性に対するリスクを引き起こす可能性がある。この問題の議論で最も脚光を浴びたのは、網生け簀で養殖しているサケが逃げ出した事例である。しかし、二枚貝集団と異なりサケ集団は、自然の淡水の産卵場所への帰巣および適応により高度に構造化されている。一方、海洋の甲殻類は、幼生プランクトンを広く分散して、通常は広い空間規模でわずかな遺伝的多様性しか見せない(Hedgecock ら2007a)。イースタンオイスターは、注目すべき例外であり、メキシコ湾と大西洋の集団間の主な遺伝的不連続性(Buroker 1983、 Reeb および Avise 1990、 Karl およびAvise 1992、
Cunningham および Collins 1994、 McDonald ら1996)、ならびに中部大西洋岸に沿った地域的亜母集団(Loosanoff および Nomejko 1951、Hoover およびGaffney 2005、Gaffney 2006)が報告されている。イースタンオイスターまたはその他の二枚貝の従来の移動による遺伝的影響はまだ文書化されていないが、予防手段としては、甲殻類の移動の提案は、尐なくとも対象となる種の集団の遺伝子構造が判定された後で行われるべきであり(Bell ら2005、 Ward 2006)、理想的にはある地域への適応の定量分析を終えてからが望ましいと指示されている。このような予防に関する研究は、甲殻類養殖業者の資力を超えており、信頼できる経営代理店が実施しなければならない。
甲殻類の水産養殖における移動の問題は、養殖場への野生の卵の供給に関連しておそらく最も頻繁に発生する。野生の卵の移動に依存する水産養殖の環境規格は、レシピエント集団の遺伝子の完全性を損なう危険性だけではなく、野生種養殖の繁殖の持続可能性に頼る乱獲の危険性のアセスメントも必要とする。すなわち、養殖業者がその他の地域から集めた卵や稚貝を移動する場合、またはある地域の卵を過剰に収穫する場合は、アセスメントは、成長させるために野生の卵を集める方法が、ある地域の二枚貝集団の補充または規模に悪影響を与えるかどうかを判断する必要がある。繰り返すが、このようなアセスメントは甲殻類養殖業者の資力を超えており、信頼できる経営代理店または信用できる第三者の認証機関(MSCなど)が実施しなければならない。
水産養殖の世界的な拡大に伴い、野生種および孵化場で繁殖した種の有害な相互作用を憂慮する声が高まりつつある(McGinnity ら2003、 Hindarら 2006)。世界の甲殻類の水産養殖のかなりの割合が孵化場で繁殖した種に依存しており、依存する割合はさらに増えつつあるので、孵化場の繁殖が天然の甲殻類の遺伝的多様性にもたらす可能性のある危険性を理解し 改善する必要がある。そうするためには、まず甲殻類の繁殖および遺伝的特徴の正確な特性を確認する必要がある。
海洋甲殻類(および海水魚)の大半は、一連の生活史特性、すなわち比較的遅い成熟、高い繁殖力、小さな卵、長寿、広く分散する幼生プランクトン、広い分布を共有しており(Thorson 1950、 Winemiller および Rose 1992)、全くの放任状態で想定されるよりも変化による減尐や死滅に陥りやすい(Palumbi および Hedgecock 2005)。甲殻類の繁殖は、複雑な事象の積み重ねであるため、個体ごとに劇的に異なる場合がある。特に同じ場所の隣り合った個体であっても、産卵時期が僅かに異なるだけで大きく異なる場合もある。このように、海洋生物の繁殖は、宝くじに似ている場合がある。すなわち、尐数の個体だけが繁殖に大成功し、大半は成功しな
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い(Hedgecock 1994)。この仮説は、実証的研究(Li および Hedgecock 1998、 Hauser ら2002、Turner ら 2002、 Hedgecock ら2007b、 Leeおよび Boulding 2007, 2009など)と理論的研究(Waples 2002、Hedrick 2005、 Eldonおよび Wakeley 2006、 Sargsyan および Wakeley 2008)の双方から指示されている。結果として、天然の甲殻類集団は、センサスサイズより数桁小さい効率的なサイズであり、生態学上のタイムスケールで生物学的多様性を蝕む可能性のある遺伝的浮動および同系交配の割合を有する場合がある。繁殖の成功と小規模の効率的な集団サイズの大きな矛盾は、孵化場の二枚貝についても報告されている(Hedgecock および Sly 1990、Hedgecockら1992、 Gaffney ら 1993、 Boudry ら2002)。孵化場で繁殖した二枚貝を養殖するリスクの1つは、近隣の野生集団の遺伝的多様性を希薄化することである(Rymanおよび
Laikre 1990、 Allen およびHilbish 2000、Gaffney 2006、 Hedgecock および Coykendall 2007)。
孵化場で繁殖した甲殻類の回復プログラムのもう1つの遺伝的リスクは、自然集団の適応度または適応性への影響である。遺伝的に異なる集団を融合するため、このリスクの一部は前述した移動において直面する問題と同様であり、自然の集団のなかでの高い遺伝子流動のため、二枚貝軟体動物ではリスクはわずかと考えられる。このリスクのその他の部分は、孵化場の環境における意図的がそうでないかを問わない人為淘汰(「家畜化」による淘汰)により必然的にもたらされた遺伝的変化である。例えば、幼生の養殖から小さな個体を間引くために、目の細かいスクリーンが甲殻類の孵化場で世界的に使用されているが、これは速く生育した幼生を選別している場合がある。この速い生育という特質が、定着後の生存と成長に否定的に関連付けられる場合は、さらに広く普及している孵化場での卵の養殖を通じて、こうして淘汰された孵化場からの生物が、ある地域集団で圧倒的な数になる場合は、その場所の野生集団の繁殖成功は原則として減尐する可能性がある。多くの特質がこのような家畜化による淘汰を発生させる可能性がある。残念ながら、孵化場での慣行がおよぼす遺伝的影響についてのデータはない。たしかに、孵化場と自然の生息環境の双方において幼生の特質に対する遺伝子型と環境の相互作用を測定する実験を計画することは、困難ではあるが興味深い。しかし、孵化場がさらに増加することによる遺伝的多様性または適応性に関するリスクは、適切な企画とモニタリングで管理できる(Hedgecock およびCoykendall 2007)。
孵化場集団の効果的なサイズは、同系交配およびランダムな遺伝子変化を避けるために大規模でなければならない。孵化場ベースの回復プログラムにおける遺伝学的影響のリスクを低減するその他のベストプラクティスは、地元の種親を使用して、産卵期内および数年で種親を交代させて、孵化場で繁殖した個体を種親として孵化場に戻すことを避けることである。こうしたベストプラクティスは、家畜化による淘汰に起因する累積的な遺伝子変化の可能性を低減する。また、養殖種と野生種の差を最小限に抑えるためのベストプラクティスは、養殖された種の家畜化および遺伝的改良も防ぎ、長期的には、水産養殖生産の効率性も好ましい方向で向上させる可能性がある。
(二枚貝軟体動物の家畜化および遺伝的改良を容認する)養殖種と野生種の相互作用のリスクを排除する1つの方法は、養殖種を無精子症にすることである。三倍体性は通常甲殻類に誘発されて繁殖努力を低下させて、エネルギーを成長へと転化させる。そして通常の産卵期には肉質を向上させる(AllenおよびDowning 1986、Nell 2002)。三倍体性は、事実上無精子症であるので、甲殻類の水産養殖でこれを使用すると、養殖種と野生種または帰化種間の遺伝子流動が大幅に低減される。ただし、三倍体性は、外来の養殖種の導入に対しては長期的には防御できない(NRC 2004)。三倍体性の卵は現在、4倍体雄の精子と2倍体の卵子を受精させて生産されている(Guoら 1996、 NRC 2004)。こうした環境における繁殖能力のある4倍体種のバ
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イオセキュリティは、取り組みが始まったばかりの課題である(Piferrerら 2009)。4倍体のパシフィックオイスターでの初期の経験では、現時点では2倍体種に勝るほど丈夫ではないことが示唆されている。
Eennenaam 2008))。しかし、遺伝子組み換え生物に対する世間の不信感により、この手段はあまり魅力的ではなくなっている。一般的に遺伝子導入動物の養殖は、野生集団への遺伝子学的影響に関する新たな問題を生み出す。このため、遺伝子導入動物は、規格では認められない予定である。 基準 3.1 導入された害虫および病原体 3.2 持続可能な野生種の調達 3.3 導入された外来の養殖種 3.4 在来種の養殖 3.5 遺伝子導入動物 指標
3.1.1 責任を持って供給された卵
3.1.2 養殖設備の信頼できる移動およびマネジメント 3.2.1 野生種の調達による生態系への悪影響 3.3.1 外来種の養殖
3.4.1 養殖動物の遺伝子型 3.5.1 遺伝子導入動物の養殖 規格
3.1.1 アセスメント前の10年以内に不法に外来種、害虫または病原体を導入した養殖場は、
認証を取得できない。
3.1.2 卵や養殖場設備と共に病気および害虫を導入することを防ぐための以下の適切なベスト
マネジメントプラクティスの確立された手順または明確な記録への準拠の明文化
3.2.1 幼生収集(稚貝収集業者など)の場合を除いて、野生種は管理されたリソースのもので
なければならない。
3.3.1 外来種の新規導入は、尐なくとも外来種導入に関するICESまたはFAOのガイドライン
に一致したリスクアセスメント、ならびに寄生虫および病原体に関するICESの要件に一致したまたはそれと同等の認証に基づいて承認される必要がある。
3.4.1 孵化場の卵については、その卵がアウトプラントされる(out-planted)種および地域に
特有の遺伝子に関する憂慮事項に取り組むために実施される努力の明文化。
3.5.1 遺伝子導入動物2を養殖しない。
原則4:環境的に信頼のおける方法での病気および害虫の管理 関連課題:病気および害虫のマネジメント、生態系保全
甲殻類の養殖業者が直面する最も困難な課題の1つに、病気、捕食動物、害虫、汚損生物の制御および管理がある。ほとんどの甲殻類は、多くの寄生性、細菌性、およびウイルス性の病気
2
他の生命体から遺伝子を導入。
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にかかりやすい(Bowerおよび McGladdery 1997)。低レベルの亜致死性の感染は、ほとんど日常定期であり、大量死も珍しくは無い。甲殻類は、原始的な免疫システムの原始的生物であり、孵化場から離れれば、膨大な量の個体に薬や抗生物質を投与する効率的な方法はない。おそらく病気の蔓延を制御する最大の希望は、感染した動物をその時点で流行性感染のない地域内に移動しないことを保証するために動物の病理学的検査を要求するマネジメントプラクティスの使用である。病気抵抗性の遺伝的傾向を増幅して自然を再現する長期の選択繁殖プログラムも、すでに流行性となっている病気の影響を制限することにおいて効果が見込まれる。 付着物による汚染の制御は、おそらく多くの甲殻類の養殖業者にとって、最大の課題である。殻、ロープ、および捕食動物から生産物を保護するために養殖業者が使用するさまざまなコンテナが作り出す養殖場の生育環境は、海草、その他の甲殻類、フジツボ、ならびにさまざまな被嚢類やコケムシなどの多くの汚損生物の理想的な生息環境を提供している。汚損生物は、餌を多く含んだ水の流れを妨げて、しばしば餌を奪い合い、養殖している生産物の品質、概観、および価値を損なうことも多い。汚損生物は、なにも付着していない養殖道具にすばやく定着して、数週間で養殖道具の2倍を超える重さにまで成長する。一部の養殖業者は、操業費用の30%が汚損生物の制御関連に投じられると見積もっている(Adamsら2009)。制御方法には、回避(幼生段階の汚損生物から生産物を一時的にまたは空間的に遠ざける)、機構的な除去(廃棄、払い落す、または水圧洗浄)、ならびに汚損生物の抹殺(エアドライ、またはブライン、酢酸、石灰などのさまざまな苛性溶液を塗布する)などがある。これらの溶液のほとんどは、海水(塩またはCaCo3)にその成分が既にあり、適切に(適切な希釈を考慮)処理?処分される限りは、制御の対象とならない生物にはほとんど影響がないはずである。
害虫および捕食動物も、甲殻類の養殖業者にとって恐るべき脅威となる。高い密度で生息する甲殻類(特に幼生)は、カニ、ヒトデ、魚、エイ、捕食性のマキガイ、および潜水する鳥などの格好の餌である。保護されていない養殖場がわずか数週間でほぼ100%死滅する被害を受けるのも珍しくは無い。養殖業者は、メッシュ状のバッグから果物を鳥から守るために使用するものと同じような網のロールまで、捕食動物を排除するための様々な装置を開発して、生産物を守っている。鳥は法により致死的管理手法から保護されているため、陸上の農業従事者と同様に排除用囲いやレーザー、騒音などの鳥よけに頼らなくてはならない。ヒトデ、マキガイやカニなどのより原始的な捕食動物については、養殖業者は通常、囲いと罠を組み合わせて使用する。ニューイングランドのカキ養殖業者は、1800年代の後半から海底をヒトデ「モップ」でさらっている(ヒトデを絡ませる大型の重い木綿のロープである。ヒトデはその後熱湯の入ったタンクに入れられる)。彼らは、ヒトデおよびカキナカセ(Urosalpinx cinerea)を制御するために、生石灰(CaO2)も昔は使用していた。多くの法域で、どこで遭遇しようともヒトデについては致死的管理を継続して指示している。
環境的に信頼のおける方法でこうした制御方法が確実に実施されるために、厳格で非主観的な規格を設定することは、取り組むに値する。どのような措置もなんらかの影響を引き起こすので、どのような影響も特定の地域に限定し、一時的で、現状復帰できるようにして、どのような措置も絶滅危惧種または貴重な生息環境に大きな被害を与えないことを保証することが重要な課題となる。
基準
4.1
病気および害虫のマネジメントプラクティス
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指標
4.1.1 4.1.2 4.1.3 4.1.4 規格 4.1.1 4.1.2 4.1.3
殺虫剤の使用 化学薬品の使用 捕食動物の管理技法 爆発物
養殖場または養殖生物に変異原性、発癌性、または催奇形性の殺虫剤を使用しない。 海洋環境に有每であると言われている化学薬品を養殖場または養殖生物に使用しない。 害虫または捕食動物である貴重種3には非致死的管理(排除、抑止、除去など)のみを適用する
4.1.4 爆発物は使用しない
原則5:リソースの効率的な使用 関連課題:養殖場の保守
気候変動および人為的なCO2 排出に関連する影響は、現在そして未来の世代が直面する最大の環境問題である。このため、食品生産でのエネルギー消費は、大きな社会的関心の対象となる。甲殻類の養殖は、すべての集約型または半集約型の食品生産システムの中で最もCO2 排出量の尐ないシステムの1つであるが、二枚貝の水産養殖管理検討会は、効率的かつ持続可能なエネルギーの使用の重要性を認識している。従って、養殖場のエネルギー消費は、継続的にモニターされるべきであり、養殖業者は、効率性を高める手段を開発してエネルギー源、特に限りのあるまたは炭素ベースのエネルギー源の消費を低減するべきであるということが規格に明示される。
甲殻類の養殖業者は、水の処分および有每な化学薬品や炭化水素の流出防止にも責任を持つべきである。養殖業は、十分な予防策を講じて、対応計画を準備するべきであり、養殖場の従業員は、水を適切に処分して化学薬品や炭化水素の流出を防止?管理するために必要な適切なトレーニングを受けるべきである。 基準 5.1 廃棄物管理 5.2 エネルギー効率 5.3 汚染防止 指標
5.1.1 操業設備およびプラスチックは、削減、再使用、リサイクル、または適切に処分する 5.1.2 バイオ廃棄物は、適切に処分する(殻、死骸など) 5.1.3 化学薬品や炭化水素の廃棄物は、適切に処分する 5.2.1. エネルギー消費のモニタリングおよび効率性
3
国の法律で定義されている、またはIUCNの絶滅危惧種のレッドリストを参照。「IUCN 2009. IUCN Red
List of Threatened Species. Version 2009.2」
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